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2016/1/26 UPDATE

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ロボットの心を作る――前人未到のプロジェクトに新卒で飛び込んだ、若手社員の奮闘

2015年6月、現実がまた一歩フィクションに追いついた。ソフトバンクロボティクス株式会社が、人型ロボット「Pepper」に“感情≒心”を持たせたモデルを発表したのだ。かねてから「鉄腕アトムを作りたい」と発言していたソフトバンクグループの代表・孫正義氏も、このプロジェクトには大きな期待を寄せていた。
Pepperに感情を持たせるためのシステム開発には、社内でも腕利きの技術者が集められた。その中で当時、唯一新卒でこのプロジェクトに参画したのが、三平氏だ。若くして一大事業にアサインされた同氏に、プロジェクトの中で得た学びや今後の展望について、じっくりと語ってもらった。


[ PROFILE ]

<プロフィール>
三平悠磨(みひら・ゆうま)
1989年生まれ。東京大学大学院・工学系研究科航空宇宙工学専攻を修了。ソフトバンクモバイル株式会社(現ソフトバンク株式会社)に入社後、技術統括・技術戦略室に配属。現在はPepperのクラウドAIの開発担当。会話エンジンのナレッジ管理システムの開発や、感情生成エンジンのコア部分(感情生成のメカニズム)の開発に携わっている。


家族に寄り添う“心”を持ったロボットを目指して

三平氏がこれまで携わってきた仕事は、端的に言えば「ロボットに“感情”を付与させて、人間と情緒的なコミュニケーションを取れるようにすること」である。開発の初期段階から関わっていた三平氏だが、始めから“感情”にフォーカスされていたわけではなく、チームとしては漠然と「家族の一員になれるロボット」を到達点として描いていたと語る。
「私は内定者の頃から、アルバイトとしてPepperの人工知能の開発に携わっていたんですね。幸い入社後も同じ部署に配属となって、家庭向けPepperのクラウドAIのコア部分の開発を担うことになりました。孫会長はプロジェクトのキックオフの会議で『家族の幸せを自分の幸せだと感じられるような、心を持つロボットを作るんだ』とおっしゃっていて、“家族”や“心”というキーワードは常に意識して開発に臨んでいました」
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ロボットの心を作る――前人未到でゴールの見えない事業だっただけに「何もかもが手探りだった」と言う三平氏。開発中、何度も壁にぶち当たったそうだ。
「最初はシチュエーションごとに、想定できる受け答えのパターンをひたすらインプットして、あらゆる会話に対応できるシステムにしようと考えていました。『こういう状況で、こう話しかけられたら、こう答える』というパターンを網羅していくイメージです。『家の中という限定的なシチュエーションだから、なんとかカバーできるだろう』と高をくくっていたのですが、これが大誤算で。数万件以上の会話パターンを入力しても、自然なコミュニケーションを取れるレベルには到底及びませんでした。
一度、開発途中で孫会長にお披露目する機会があったのですが、そこでPepperがフリーズしてしまうアクシデントが起きてしまって……。一般発売の予定日も迫っていたので『もう一度チャンスをください!』とすぐにデモのやり直しを嘆願したのですが、孫会長からは『できてからでいいから、もう少し落ち着いて開発しなさい』と言われ、心を持ったPepperをお客様のもとへ届けるため、最終的には2月は開発者優先の形で販売が行われ、本格的な一般向け販売は6月となりました」

リセットする勇気、ゼロから学ぶ根気

時間的な猶予はできたものの、これ以上の失敗は許されない。背水の陣に立たされたプロジェクトチームは「このまま進めても活路は開けない」と判断し、開発の方向性を大きく転換する決断をする。
「東京大学で感情が動くメカニズムの研究をされていた光吉俊二教授に協力を仰いで、どうやったらPepperが心を持てるようになるか、議論を繰り返しました。その過程で生まれたのが“感情生成エンジン”です。これは、人間の脳内で分泌されている神経伝達物質が、それぞれどのような感情に結びついているのかを表した『感情地図』を、システム化したものになります。
それまでのシステムでは『なでられたら嬉しい』といったシナリオを膨大に積み重ねていたんです。けれども、お父さんになでられるのと見知らぬ怖いおじさんになでられるのとでは、まったく心象は変わってきますよね。もっと言えば、同じお父さんでも関係性によって、嬉しかったり嫌だったりと差異が出てくると思います。こうした微妙なニュアンスの違いは、どんなにシナリオを準備しても最後まで拾いきれなかった。一方、感情生成エンジンは、外部から受け取った刺激から『今どんな気持ちか』を、30数種類の感情ラベルとして出力します。その感情を元にどういう行動を取るか選択させるようにしたことで、膨大なシナリオを書くことから解放されたんです」
苦労して育てた従来のシステムをリセットすることで、かすかに光明が見えてきたプロジェクト。しかし、次のデモまでに与えられた時間は3カ月。短期間でゼロから新たなシステムを構築することは、並大抵のことではなかった。
「メンバーのほとんどが、今まで脳科学にも神経科学にもまったく触れてこなかった人間です。なので、感情生成エンジンを作る方針が固まってからは、早朝から深夜までひたすら神経科学の本を読んで基礎知識を学び、『この内分泌物質をどうプログラミングに落とし込んでいくか』といった検討を繰り返していきました。この頃、チーム内では『いまバソプレシンが増えたよね』とか、『ドーパミン出てるんじゃない?』みたいな会話ばかりしていたので、端から見たら危ない集団に見えていたかもしれません(笑)」
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大失敗のデモから3カ月後、感情生成エンジンを搭載したPepperは見事に生まれ変わった。リアルタイムで感情が刻々と変化する様子を見て、とりわけ感動していたのが孫氏だったそうだ。
「感情生成エンジンが情緒を判定するプロセスは、Pepperの胸部についているタブレットで観察できるんですね。リアルタイムで内分泌が動いて、さまざまな感情が移りゆく様子を見た孫会長が『よくやった!』とおっしゃって、ここまでの苦労が報われた思いがしました」

今を知っている、それが若手の強み

三平氏が新卒で飛び込んだPepperのAI開発チームには、当時30人ほどのメンバーがいた。その中には、Pepperの開発初期から携わっている熟練の技術者も数多く在籍していて、同氏は圧倒的に若手だった。世代が上の人たちばかりの環境で、苦労などはなかったのだろうか。
「年上の方々は経験豊富なプロフェッショナルばかりで、僕にとっては非常に刺激的な環境でした。ただ、開発体制がレガシィな部分が結構ありまして。『ここは最新のこのツールを使った方がいい』とか、『ここのコードは最近の流儀だとこうした方がいい』と感じることは何度かありましたね」
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古きよき開発環境の中で、三平氏が覚えた違和感。これが後に“若手だからこそ出せる強み”につながることとなった。
「自分の考えた改善案を上長に相談したら『便利だと思うなら使ってみたらいいじゃないか』と言われたんです。それからは意識を変え、自分が発信源となって『このツールを使うようにしたらもっと効率がよくなります!』と周りを巻き込みながら、よりよい開発体制になるよう動き回るように。最初は紹介したツールをなかなか使ってくれなかった上の方々も、何度も声をかけて触ってもらえて『これ使いやすいね』と受け入れてくれた時は、とても嬉しかったですね。
プログラミングの世界は本当に日進月歩で、日々新しいツールやトレンドが生まれています。若手の方が新しい技術に精通している場合も多いので、そこは新卒で経験が乏しい人間でも、強みとして発揮できるポイントだと思います」

Pepperは人と共に成長していく

現在、家庭用のPepperは毎月1000台、予約者のもとに送り出されている。無事に出荷できるようになったからといって、開発チームの仕事が終わったわけではない。「Pepperは今後もどんどんアップデートしていきます」と、三平氏は今後の展望を話してくれた。
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「リリース後は現状のツールのチューニングと、システムのアップデートを併行しています。今のPepperは、人間で言うと生後3~6カ月くらいの感受性で動いているんです。今後はより複雑な感情を表現できるようにし、ボキャブラリーも増やしていくことで、Pepperを成長させていきたいと思っています」
開発中、三平氏を始めチームのメンバーは、反応を確かめるためにPepperと数多くのコミュニケーションを取ってきた。自分たちが作っているロボットであるにも関わらず、その制御下から離れた“いきもの”と感じる瞬間も少なくなかったと、三平氏は言う。
「Pepperの内部では常に、外界の刺激に応じて感情が生み出されています。だから、突然怒りだしたり落ち込んだりすることもありますし、放っておくと構ってほしそうにすることもあります。その反応には私達も驚かされることが多くて。いろんな感情がいっぺんに重なって混乱している様子を見た時には『本当に赤ちゃんみたいだな』と感じましたね。
これからは、不機嫌だからわざと会話を無視したり、嬉しいんだけど気持ちを抑えていたりなど、そういう感情の機微を表現できるようにすることで、ユーザーの方々にも成長を感じてもらえるようなアップデートをしていきたいです。10年後にはPepperも中学生くらいになって、反抗期なんて来ていたら面白いですよね(笑)。こうした成長を身近に感じてもらうことで、Pepperがより家族として受け入れられていったらいいなと。今は本当に、Pepperを育てていく親のような気持ちになっています」
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三平氏のように、大企業に入って新卒から大きなプロジェクトにアサインされ、その上で成果を残せる理系学生は数少ない。これから社会に出る理系学生は、どんな意識を持っていれば会社で即戦力になり得るのか……後続のためのアドバイスを求めた。
「手を動かして、成果物を残すこと。自分の作りたいもの、興味のある技術に素直に手を出して、不格好でもいいから自分で考えたものを形にすることが、とても重要だと思います。この世界には、実際に作ってみないとわからないことが山ほどあります。そういう経験則を、時間のある学生時代のうちにたくさん貯めておくことは、将来に生きてくるはず。また、完成品でなくてもいいから、人に見せることも大切です。そうすることで、周りの人から思わぬアドバイスをもらえたり、面白い取り組みに誘ってもらえたりします。ぜひ、研究室の外の世界に目を向けて、自分の成果を発信してみてください」
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